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バドミントン短編小説

バドミントンで奨学生になり、大学でプレーを続ける美香は、バドミントン・勉強・アルバイトと、忙しい毎日を過ごしていた。

そんな彼女が商店街で気まぐれにした寄り道が、思いがけない出会いを運んでくる。

彼女に訪れた出会いとは・・・

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腕が上がらなくなるくらいシャトルを打って、今日も一日が終わった。

熱いシャワーが、汗でべとついた肌を洗い流していく。

1日で一番ホッとする時間だ。


バドミントンで奨学生になった私には、休日などない。

勉強だってそれなりにしなくてはいけないし、生活のためにアルバイトもしなければならない。


たまには息抜きしても良いのだろうが、これといった趣味のない私は、結局自主練に出かけてしまう。


何か運動を、と両親に勧められて8歳の頃に始めたバドミントン。

しかし、その両親は3年前に他界してしまった。

仕事ばかりしている両親が、珍しくふたりで出かけた日に、飲酒運転の車に突っ込まれた。


父も母も自分の会社を持っていて、とても忙しい人だった。

家族が揃うことなんてほとんどなかった。


そのせいだろうか。

報せを受けた時はそれなりに悲しかったけれど、どこか人ごとだったような気もする。


もうすぐ秋だというのに暑い日が続く。

近くの公園では、セミたちが過ぎ行く夏を惜しむように鳴いている。


その日、食料品を買う以外には使わない商店街をブラブラしたのは、まったくの気まぐれだった。

いろいろなお店があることに気づいて新鮮な気持ちになった。


一息つこうと喫茶店を探していると、他の店とはどこか違う雰囲気を持った店を見つけた。

古ぼけた木の看板が印象的なテディベアの専門店だった。

小さい頃からぬいぐるみなんて興味なかったのに、なぜか引き付けられた。


店内に入ると、ゆったりとした心地よい音楽が私を迎えてくれた。

何十体ものテディベアがズラリと並んでいる。

愛らしいもの、本物かと思うほどリアルなもの、大きいもの、小さいもの、たくさんあった。


店内を回っていると、何か暖かい視線のようなものを感じた。

ガラスケースの隅に、フワフワの毛をしたベアがいた。

なぜか他のベアと違う気がした。


「そのベア、よろしければ、抱いてみますか?」


声をかけてきたのは、そのお店の店長さんだった。

軽く会釈をする。


ちょうどお客がいなかったこともあって、話好きの店長さんは色々な話をしてくれた。

 

そのベアがテディベアアーティストと呼ばれる作家さんの手作りであること。

テディベアがただの高級な熊のぬいぐるみではないこと。

作家さんの作ったベアにはその人の想いが込められていること。


話が一段落したのは夕方だった。

少し高かったが、私はそのベアを連れて帰ることにした。


包みを開けて取り出したベアを、ベッドの脇に置いた。

私の殺風景な部屋が、少しだけ暖かくなったような気がした。


いつからだろう。

私は家を出るとき、家に帰ったとき、このベアに声をかけるようになった。


ベアが家に来て3ヶ月ほどたっただろうか。

この素敵なベアを作った作家さんとお話がしたい。

そう思うようになった。

お店に電話をすると、店長さんは快くその作家さんのことを教えてくれた。


その翌日、私はベアを持って教えられた住所に足を運んだ。

自宅から40分ほど電車に揺られてたどりついたのは、ごく普通の家族向けマンションだった。


出迎えてくれたのは、永野さんという品の良い女性だった。

40歳くらいだろうか。


「はじめまして。今日は突然お邪魔してすみません。」

「いいえ。私の子供を連れてきてくれて嬉しいわ。」


リビングで簡単な自己紹介を交わした後、落ち着くのを待って、私は自分のベアを取り出した。

驚いたことに、永野さんは私のベアのことを覚えていた。

自分の作ったベアは子供のようなものだから当然だ、と笑っていた。


「そのベアは、もともとあるご夫婦から、娘さんの誕生日プレゼントにと依頼されて作ったものなんです。」

「もともと?」

「ええ。いつも構ってやれない娘さんのためにと相談に来られました。でも・・・」

「でも?」

「お気の毒に。そのご夫婦は交通事故で亡くなられてしまったんです。」

「!?」

「迷ったんですけどね。うちにいるより、喜んでくれる人の元に行った方が良いんじゃないかと思いましてね。それであのお店に置かせていただいたの。」


胸騒ぎがした。

まさか、まさか・・・。


「あ、あの。このベアを頼んだ方のお名前ってわかりますか?」

「確か麻生さんとおっしゃいました。娘のために最高のベアを作ってくれと何度も念を押されてましたからよく覚えていますわ。」


その瞬間、涙が弾けた。

涙がこんなに熱いものだったなんて、初めて知った。


別に仲が悪いわけではなかったけれど。

忙しい人達なんだと、どこかで割り切って毎日を過ごしていた。


だけど、だけど。

自分のやりたいことは何でもやらせてくれた。

応援してくれた。


いつの間にか忘れていたけれど。

どんな時だって力になってくれていた。

今の私がいるのは、父さんと母さんがいてくれたからだったんだ。


私は・・・こんなに愛されていたんだ。


ソファーにもたれて大声で泣く私の肩を、永野さんがそっと抱きしめてくれた。

隣にチョコンと腰掛けたベアが、優しい目で私を見守ってくれていた。


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