Dear my sweet time


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バドミントン短編小説

娘を嫁に出す父親。

結婚式はつつがなく終わり、自宅に戻る。

そんな彼が、書斎で見つけたのは・・・

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大切なもの、大切な人。

なくなって、いなくなって初めて気づく。


私の上の娘、千春の結婚式は、終始和やかな雰囲気の良い式になった。

大勢の参加者に祝福された、新郎新婦の笑顔がとても印象的だった。


母さんと私と、下の娘である優奈は夕日に照らされて、なぜか無言のまま、帰りの各駅停車に揺られていた。

伸行君は千春が入っていたバドミントン部の先輩で、高校から今日まで、十年近くの付き合いになる。


まじめで明るい、誰にでも好かれる好青年だ。

きっと良い家庭を作ってくれることだろう。


随分と陽が長くなった。

もう7時だというのに、窓の外はまだ少し明るい。


「お姉ちゃん、キレイだったね。」


下車間際の優奈のつぶやきを、風がさらっていった。


家に戻り、礼服を脱いでソファに腰掛ける。

私は、タバコを吸いながら物思いにふけっていた。


思えば、妹の優奈は、小さい頃から何でもひとりでできる子だった。

それに比べると、千春は甘えん坊だった。

そんな千春が、いつの間にか恋をして、愛する人を信じてふたりで生きていけるようになった。


家族として、父として、とても喜ばしいことのはずだ。

それなのに、どこかで戸惑いを覚えている自分がいた。


引き出物を開けると、中に入っていたのはどこにでも売っていそうなティーカップだった。

私は思わず苦笑した。


段取りの悪いふたりのことだ。

時間のない中で、大あわてで買ったのだろう。


出したばかりのカップを使って紅茶を飲んだ。

普段はにぎやかなティータイム。

いつも4人で、時には伸行君を交えて、母さんと優奈の手作りクッキーをつまむかけがえのない時間だった。


私は席を立つと、2階の書斎に行くことにした。

読みかけの本を読み終わる頃には、母さんが呼んでくれるだろう。


読みかけの本は口実だった。

静かすぎるリビングの居心地に耐えられなかったというのが本音だ。


大学教授という職業柄、書斎には本があふれている。

さて、どれを読もうか。

どうせ中身は頭に入らないだろうから、どれでも良いのだが。


書斎に入ると、お気に入りの肘掛け椅子に、きれいなラッピングの箱が置いてあった。

今朝まではそんなものはなかったから、出かける直前に誰かが置いたものだろう。

こんなことをするのは千春しかいない。


中には熊のぬいぐるみが入っていた。

テディベアという言葉は知っていたが、見るのは初めてだった。

特別な想いを込めて贈られるぬいぐるみなのだそうだ。


少し大きな優しい瞳が千春に似ていた。

首には、いつも千春が髪をまとめているリボンが結んである。


まぶたの奥に千春が浮かんだ。


いつも幼稚園の男の子にいじめられて、泣いて帰ってきた千春。

大人になったらパパのお嫁さんになると笑っていた千春。

初めて出場したバドミントン大会に勝って、飛び上がって喜んでいた千春。

そして今日、涙を流しながら私たちへの手紙を読み上げた千春。


大切な人、いなくなって初めて気づく、か。

今日ほどそのことを強く感じたことはなかった。


少しだけこぼれた涙を、鼻をかんでごまかした。

ティッシュに無精ひげが引っかかった。


少しだけ寂しくて、だけど暖かい気持ちが胸を満たしていた。

書斎に置くにはかわいすぎるぬいぐるみを、そっと机の上に置くと部屋を出た。

熊の手には、薄茶色のメモがそっと握られていた。


「また遊びに行きます。それまではこの子を私だと思ってかわいがってね。千春」


家族には少しの間、内緒にしておくことにしよう。

子離れのできていない父だ。

それくらいのことはしても良いだろう。


下からかすかな音楽が流れてきた。

千春の好きな曲だった。


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