Life is・・・


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バドミントン短編小説

バドミントンを通じて結婚した晃と久美。

あの日、すれ違ってしまった友人 幸恵。

待望の第一子を授かったふたりは忙しい毎日を送っていた。

そんなある日・・・

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久美の入院している産婦人科から電話がかかってきたのは、何とか報告書をまとめて一息ついていた昼下がりのことだった。

ようやくタクシーを捕まえて病院に向かった。


分娩室のドアを開けると、圧倒的な緊張感が僕に襲いかかってきた。

真剣な顔をした先生。

それを的確にサポートする看護師たち。

そして、額から汗を流して苦痛で顔をゆがめながらも、ひとつの生命と、正面から向き合う久美がいた。


「・・・きて、くれたんだ。」


僕に気づいた久美が、少し安心したようにチラリとこちらを見て微笑んだ。


こんなとき、夫として何をしてやれるだろう。

何ひとつ思いつかなかった。

歯がゆかった。

無力な自分が恨めしく感じられた。


「旦那さん、手を握ってあげてください。」


その声に振り向くと、久美と同じように額に汗を浮かべた先生が笑顔で僕を見ていた。

僕は戸惑いながら、そっと久美の手を握った。

じっとりと汗ばんだ手は、びっくりするほど熱く、力強く脈打っていた。


それからどれくらいの時間がたっただろう。

小さな命が、人生のスタートを切った。


涙なしには見られないと評判の映画を見たときも。

久美お勧めの泣ける小説を読んだときも。

こんな気持ちになったことはなかった。


ただ涙だけが頬を濡らした。

生まれたばかりの自分の子供に笑顔を向けることも

疲れ切った顔で僕を見つめる久美に声をかけることも

お世話になった先生にお礼を言うこともできなかった。

伝えたい言葉は胸の中にたくさんあったけれど。

僕にできたのは、ただ頭を下げることだけだった。


あれから1ヶ月。

新米夫婦の子育てもようやく板についてきた。

風呂の入れ方もうまくなった。

毎日、家に帰るのが楽しみで仕方ない。


そんなある日の夜のことだった。

忘れかけていた、あの日の夢を見た。


「どうして、どうして晃さんと久美先輩なんですか・・・どうして・・・。」


誰もいない大学の講義室。

窓の外からは、かすかに陸上部員たちの声が聞こえていた。

夕焼けが幸恵の、責めるような、悔いるような泣き顔を鮮やかに照らしていた。


目が覚めた。

辺りはまだ真っ暗だ。

時計を見ると、まだ午前3時を少し過ぎたばかりだった。


僕と、大学のバドミントン部で知り合った久美と、後輩の幸恵。

初めて会ったはずなのに、あっという間に3人兄妹のような仲になった。

僕たちはどこへ行くのも、何をするのも一緒だった。


僕と久美の、大学生活最後の夏。

意を決して告白してきた幸恵に、僕は久美と付き合っていることを伝えた。

別に隠していたつもりはなかったけれど、どこか気恥ずかしくて誰にも話してはいなかった。

機会があれば打ち明けて、それでも今まで通り3人で・・・

そんな風に楽観的に考えていた。


その日を最後に、幸恵は部活をやめた。

大学内で出会っても、言葉もかわせない日々が続いた。

そして、卒業と同時に僕たちの前から姿を消した。


僕の心に残るしこり。

口には出さないけれど、それはきっと久美も同じはずだ。


隣には、穏やかな寝顔で、ぐっすりと眠る久美と雄也がいた。

寝相が悪いのは相変わらずだな。


どんな夢を見ているのだろうか。

僕はずり落ちた布団を掛けなおした。


仕事、子育て、色々なことに手を焼きながらも確実に時間は進んで、コスモスが咲き乱れる秋がきた。

久美の一番好きな季節だ。


珍しく家でテレビを見ながらのんびりしていた土曜日の夕方のことだった。

突然鳴ったインターホン。

出ると配達業者が立っていた。


ドアを開けると落ち葉が2、3枚舞い込んできた。

風は、どこか懐かしい秋の匂いがした。


荷物の差出人を見て驚いた。

あわてて部屋に駆け込むと、大声で久美を呼んだ。


中に入っていたのはずっしりと重い熊のぬいぐるみだった。

フワフワの毛が心地良い。


「遅くなりましたが出産祝いです。私も、もうすぐママになります。パパ、ママの先輩として、いろいろ教えてくださいね。」


ぬいぐるみと一緒に入っていたメッセージカードには、昔と変わらない幸恵のきれいな字が並んでいた。

そしてその影には、遠慮がちに結婚式の招待状が添えられていた。


久美が「出席」に丸をつけた。

おいおい、日付くらい確認しろよ。

一瞬そう言いたくなったが、久美がやらなかったら僕がやっていただろう。


サインペンでつけた鮮やかな丸は、二人の涙で少しだけ滲んでいた。

雄也が突然やってきたプレゼントに、キャッキャと歓声を上げた。


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